#10 『まち』に馴染むゲストハウス
ゲストハウスの計画初期段階では、四角い箱型のモダンなデザインでした。波打つような床面と屋根が連なるようなデザインは私個人的には好きなデザインでした。
しかし、ここに訪れようとする方は何を求めて来るのか?
都会で見るようなモダンなデザインが果たしてこの『まち』受け入れられるのか?
という疑問が常に頭の中をよぎっていました。
備前市伊部という『まち』は備前焼の発祥の地で、備前焼は別名『伊部焼』とも言われる程、伊部地区は備前焼の窯場が今なお多く残る地域です。
そのほとんどは切妻屋根に瓦(備前焼の瓦が使われているところもあります)が葺かれた建物で至る所に煙突がニョキニョキっと生えている風景はいかにも備前焼のまちだなと感じる瞬間です。
また計画地となった敷地は国道2号線とJR赤穂線に挟まれた場所にあります。
元々は竹林と一部畑があり国道から裏道の線路に向かって1mほど敷地が下がっている特殊な地形でした。
当初の計画では土地に盛土をして整地をした上に計画するものでした。
ここでも元々あった敷地の歴史(特徴)を何か残せれば良いのになぁという思いが頭の中をよぎっていました。
そこで頼まれてもいないのにスケッチを描いて社内でプレゼンをしてみました。
そのときのスケッチがこちらです。
最終的に完成したプランとは若干異なりますが、コンセプトは伝えることができました。
ここで大切にしたポイントは2つです
①地域になじむ建築であること
地方の小さな工務店がこの歴史ある『まち』で今後も生き残っていくことを考えると
『まち』に馴染むことは絶対条件だと感じました。
その為には四角い箱ではなく切妻屋根に軒のある建築が『まち』に馴染む建築だと考えました。
またこの地域では切妻屋根+縁側という構成がどの家でも用いられており、伊部地区では縁側部分が商店であったり、展示スペースであったりと『まち』との接点の役割をしています。
このような『まち』の歴史を受け継ぐような形で全体を構成しました。
②土地の特徴を活かすこと
元々あった土地の高低差を建物内部に落とし込むようなデザインとしました。
整地をして平らな敷地をつくった上に建築をする方が簡単ではあるのですが、せっかくであれば敷地の特徴を活かしたいと思いました。
その高低差を利用して目線のズレや、社屋とゲストハウス部の距離感、なにより目の前を走る電車を間近で見られたら最高じゃないかと思いました。
JR赤穂線は国鉄時代からの黄色い電車が今なお走っています。しかも単線で段差はありますが柵も何もありません。
地域の方からすれば目新しい風景ではありませんが、都会から日常と違った体験を求めてここを訪れる人からすれば新鮮な風景かもしれません。
高低差を利用して高い部分に位置する棟と低い位置にある棟を半階ズラした構成にしてその間をブリッジ階段でつないでいます。さらに間に中庭を設けることで北面にもしっかり採光をとることが可能になりました。切妻屋根とすることで光の入り方も良くなりますし軒を設ければ日よけもできます。
何かモヤモヤしていたデザインが晴れたような気がして描いてみたスケッチは思いの外社内では受け入れられ急遽プランを変更して計画を進めることになりました。
『まち』に馴染む建築を設計するとは
2020年の東京オリンピックのときに国立競技場の建て替えについて国際コンペの末に選ばれたイギリスの建築家ザハ・ハディド氏のデザインが白紙撤回されるという事件がありました。
果たしてこの結果が良かったのか悪かったのかは誰にも分かりません。
個人的にはあの近未来的なスタジアムが東京のまちにできたらどうなったのか見てみたかった気もしています。既存のまちに新たな風が持ち込まれることで新たな道が開けることもあります。
今回の有本建設のゲストハウスの建築においては、スケールは全く異なる話で比べるのはおこがましいことではありますが、我々の意志としては間違っていなかったのではないかと思っています。
必要なのは『ドヤ感』ではなく、いかに『まち』に馴染むか
これからも『まち』に必要とされる工務店であるために、このゲストハウスをフル活用して地域に役立つ場になるよう努めていこうと思います。
ではまた
備前ホテル陶については公式HPをご覧ください。