大工の見習い  No.3

大工の見習い No.3

2022.03.29
トヨちゃんの回想録

ある日の朝、作業開始。

「今日は何をしましょうか?」と親方に尋ねると、

「あそこにある材料で、水垂敷居を作れ。」

と言い残し、他の職人と屋根へ上がってしまった。

さて、どうしてよいやら…

『水垂』という言葉すら耳にしたこともなかった。

手をつけるすべもなく、その場でただただ呆然と立っていた…

やがて10時になり、

「大工さん休憩ですよ」と、お施主様が出てこられた。

「ちょっと休もう」と親方が言うと、大工さん全員が屋根から降りてきた。

私は泣き出したい気持ちでいっぱいだった。

すると兄弟子が私のそばに来て

「どうしたんなら」と声をかけてくれた。

「水垂敷居を作れと言われたのですが、分からないんです…」

「ちょっとついて来い。」

そう言うと兄弟子は私を物影に連れて行き、水垂敷居の作り方を教えてくれた。

仕事にかかると、

「君も休みなさい。」お施主様が言ってくれたが、

「僕はまだ何もしていないので仕事をします。」

と、作業に戻った。

涙が出るほど嬉しかった。

あの時の兄弟子の顔が、私の頭に焼き付いて今も忘れられない。

                                つづく

トヨちゃんの回想録『大工の見習い』

有本建設 創設者である有本豊敏が丁稚時代を語る。